黄昏

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「確かに、お客さんは良く来られてますけど、なかなか会いませんね」 その答えに多少満足した。 「ですよね。たいがい、あのおばさん店員と話していますから」 えい、白状しよう。これは多分に誇張している。 この日、休みであったらしいおばさん店員は、確かによく顔を合わせていたし、いくつか雑談もしていた。しかし、たいがい話しているといった気さくなものではない。原因は、不器用な私にある。質問してくるのはいつも向こう。話しかけてくるのはいつも向こう。私は精一杯微笑んで、とにかくその人に的確な回答を用意して答え、そうしていつも、気まずい思いをしながら、おばさん店員が厨房に引っ込んでいくのを、気まずい思いをして見つめていた。 強がる必要が果たしてあったのか。しかしわざわざ訂正するのもおかしいと思い、そのまま、流れるに任せた。 「ごゆっくり」 女性店員は、注文を記録して去った。ささやかな革命は数分で終息してしまった。 つまらない男と思われただろうか。話しかけておいて、何たる事。果たして自分はうまく笑えていたのか、それすらも怪しい。麦酒がやってきたので、私はそれをガブリと飲んだ。 時代なんかのせいじゃない。行うのは、いつも個人だ。個人がよければ平成の世でも上手くいく。私は、局地的にすら役立たずだった。色男。甲斐性持ち。糞食らえ!そんなもの、一生私の名には冠せられない。 上手く世渡りする人とは何だろう。自分と、どこが違うのか。 自分がこんなに骨を折り、苦心して、しかし結局間違えてしまう人付き合いを、彼らは無意識にやってのける。そして、苦しいなどとは微塵も思わない。 考えすぎか、もっとラフに生きれば良いのかと思って、しかし私が思慮を失うといよいよ唯の無神経男に成り下がる事は、過去に実証されていた。 「良く読まれますね」 ふと見ると、先ほどの女性店員が、私の空になった皿を片付けていた。
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