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黒い服を着てきてよかった、と襟元をパタパタさせながら私はさらに日陰の道を進んだ。
街中にある階段を降りると、ひんやりとした空気が流れてきた。
人の波をすり抜け、私は「南改札口」と書かれた看板を目指す。
ICカードをスマホケース越しにタッチし改札を通り、さらに階段を降りる。
地下というのはどうしてこんなに涼しいのだろう。
ゴオッと目の前を通過する電車の風を存分に堪能し、去って行く電車を名残惜しく見つめる。
乱れた髪をちょいちょいと整え、私は次に来た電車に乗った。
時間帯のせいもあってか各駅停車の車両は随分と空いている。
動き出した電車に少し体を揺らし、ぎしっと軋む座席に腰掛けた。
実家に帰るのは、何年振りだろうか。
黒く染まった窓に映る自分の顔を見ていると、ふと昔の記憶が蘇ってきた。
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