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「ねぇ、お嬢ちゃん。泣いてるの?」
あの時、私にそう声をかけてきたのは誰だったか。
背後から聞こえた声に、ばっと振り向いた私に、その人は驚いたように目を見開いた気がする。少し間をおいて、その人は優しくこう続けた。
「お嬢ちゃん、いいものあげよっか」
「いいもの…?」
今思えば見ず知らずの人に答えるなんて、なんて不用心なのだろう。
しかしあの時の私はなぜか、警戒心というものをほんの少しも感じていなかった。
「そう、いいもの」
その人は小さく呟くように言った。そして私にすっと手を差し出した。
差し出された手には小さな袋に入った金平糖が乗っていた。
「でも…知らない人から何か貰っちゃ駄目だって、おばあちゃんが…」
「これね、実は魔法の金平糖なの」
「え?魔法の金平糖…?」
その人は真剣だった。
「これを食べるとね、不思議と元気になるの。お嬢ちゃん、何だかとっても悲しそうだから、特別にあげちゃう」
「本当に…?本当に魔法の金平糖?」
「ええ、もちろん。どこにも売ってないのよ」
もちろん今ならそんなわけはないとわかる。
でもあの時は、罪悪感と悲しみに暮れていた幼い私には、その金平糖がキラキラと輝いて見えた。
私は手を伸ばしかけて、また引っ込めた。
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