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「で、でも、やっぱり知らない人に貰ったら怒られちゃう…」
私がおどおどと言うと、その人は眉を下げて困ったように笑った。
「ううん、困ったわねぇ…」
その顔がおばあちゃんのあの困った顔にそっくりで、私は驚き、同時に胸が締め付けられるような気がした。今はもうその人の顔も覚えていないのに、なぜかそう思ったことだけは鮮明に覚えている。
私は無意識に手を伸ばし、金平糖の入った袋を手に取っていた。
「あら?貰ってくれるの?」
「うん」
「そう、ありがとう」
嬉しそうに「ふふっ」と笑って去って行ったその人に、私はどこかで会ったような気がしてならなかったが、それは結局今でもわからない。
でもその人も私と同じ黒い服に身を包んでいたことは覚えている。もしかしたら祖母の知り合いで、葬儀にいたのかもしれない。
私は袋を開けて金平糖を一粒手に取ると、目を瞑り、ぽいっと口に入れた。
柔らかな甘さが口にじんわりと広がり、心なしか元気が湧いたような気がした。
不思議な不思議な魔法の金平糖。
「花ヶ崎、花ヶ崎です。お降りのお客様は~」
車内に流れたアナウンスに、はっと我に返る。
いつの間にか着いてしまったらしい。
私は急いで電車を降り、駅を後にした。
今日は大好きな祖母の13回忌だった。
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