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よくある話
「新商品でーす!どうぞご試食くださーい!」
目の前にずいっと出された手を無視することもできず、私は軽く会釈してそれを受け取った。
にこやかに笑う女性は「ありがとうございまーす」と甲高い声で言うと、また「新商品でーす」と別の人に手を差し出す。
ロボットような機械的な動きを横目に、私はその「新商品」をスカートのポケットに突っ込んだ。
昼下がりの街はうだるような暑さで、道行く人はみな汗を拭っていた。
春が来たと喜んでいたのがもう随分昔のことのようだ。あの柔らかな日差しは一体どうしてこうも姿を変えてしまったのか。
太陽よ、お前はそんな奴じゃなかったはずだ。優しさを思い出せ。
じりじりと照りつける太陽を睨みつけてみるが、とてもあの光には敵わなかった。
太陽を直視したせいか、そこら中に奇妙な光がチカチカと飛んでいる。
私は心の中で白旗を振りつつ、敬礼のようなポーズで光を遮りながら歩みを進めた。
それでも容赦無く日光は容赦なく降り注ぐ。
耐えきれずビルの陰を歩いてみるが、暑さだけはどうしようもなく、汗はどんどん溢れてくる。
脇や背中がじっとりと湿っているのを感じる。
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