102人が本棚に入れています
本棚に追加
「公太郎、そっちの新歓(しんかん)の調子はどう?」
僕は歌のフレーズを曖昧に口ずさむ公太郎にさりげなく問いかけた。
「んー、まずまずってところだな。 例年通りのペース」
「そっか、そうだよなあ」
僕が椅子の背もたれに身を預けて長い間ため息をつくと、公太郎は愛想程度の心配顔になる。
「やっぱ俺も手伝おっか?」
「その気もないのに言うなよ。 ムカつく体力がもったいない」
睨まれた公太郎は、全く怯む様子もなくニヤリと笑う。
「あの人の命令だからなあ。 あの人とお前だったら俺は迷いなくあの人を取る」
「悲しい友情だな」
小言のひとつやふたつ言ってやろうかと思っていると、3限の講義が始まる15分前を告げる安っぽいチャイムが鳴った。 周囲の学生たちが、キャンパスマップを広げながら慌ただしく食堂を出ていく。
すっかり綺麗になった皿をトレイに載せてよいしょと立ち上がった公太郎は、少しそわそわした様子で僕に向かって言った。
「お前、今日の3限後ヒマだろ? 一緒に姫様ンとこいこうぜ」
僕は応える。
「言われなくてもそのつもりだよ」
実に気乗りしないけど。
最初のコメントを投稿しよう!