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人は誰しも一度、ヒーローに憧れる。
幼い頃に純粋な瞳で観た仮面ライダーに。 魔法少女に。 ウルトラマンに。
でも、大人になるにつれて、そんなヒーローにはなれなくて、それに気づいて、ヒーローを自分の等身大に置き換えたり、ヒーローそのものをどこかへ追い出してしまったりして、僕たちは日々を生きていく。
子供の頃の一時の憧れは、賞味期限も短いのだ。 それを腐ったままとっておくのか、捨ててしまうのか、あるいはそれを真似して自分の手で新しいヒーローを作り上げるのか。
僕は、自分の「ヒーロー」は陶製の漬け物容器の中に入れて心の奥底においやったものだと思っていた。
だけど、そうじゃなかった。
19回目の春の、清々しい陽気に満ちた昼下がりのことだ。
僕はその時、ヒーローに助けを求めた。
遠い昔に観ていた仮面ライダーを無意識のうちにイメージして。
大学2年生にもなって。 恥ずかしながらも。
最後にそれをしたのは、小学3年生の夏休みの最終日だ。 読書感想文がどうしても終わらずに、自意識をもって以来初めて"深夜"というものを経験したあの日だ。
その時は最終的に、"お母さん"という、よっぽど機嫌の悪いときを除いて年中無休の僕のヒーローに手助けしてもらい、涙で原稿用紙を4枚ほど無駄にしながらもなんとか乗り切った記憶がある。 その際母に「ヒーローは助けられる人しか助けられないんだからね、頼りにしちゃダメだよ」と、なんだか深いような深くないようなことを言われてからこの方、律儀であることだけがとりえである僕という人間は、なるべく誰かを、特に状況を一気に覆してしまえるような万能のお助けマンの存在を頼りにせずに生きてきた。
今回僕はそのいいつけを破ってまでヒーローの登場を願ってしまったわけだ。 しかし、10年越しの呼び掛けに、ヒーローは応えてくれないだろう。
今この瞬間、僕は最もヒーローが登場しそうで、それでいて最もヒーローが登場しえない状況にあった。
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