春にありきたりで、ぴったりなこと

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「あの歌の"友達"の定義ってなんだろうな?」 昼食を共にしている相方の突然の問いかけに、僕、黛(まゆずみ)ましろは口の中の固い牛肉を必要以上にゆっくり咀嚼しながら首をひねって見せた。 彼は思ったことをすぐ口にしてしまうきらいがある。 だから時々主語が抜けたりして、相手には理解不能な発言をすることがあるのだ。 僕の仕草の意味を悟ったらしい相方は大学の学生食堂で最も安く、量もそこそこ多いカレーライスのルーをかき集めながら悪びれる風もなく言った。  「"友達100人できるかな"って歌だよ」 「違う。 確かタイトルは"1年生になったら"だよ」 「あ、そうだっけか」 僕の修正に構わず、彼、七瀬公太郎(ななせ こうたろう)は、学食の所々にたむろしている学生に視線を滑らせながら質問を改める。  「小学生とか中学生の時だったら"友達100人"なんて絶対無理だ、アホらしいって思ってたけどさ、大学じゃあ挨拶をする程度の仲のやつだったらそんくらいいるだろ?」 「君も知ってると思うけど、僕は君ほど人間関係のフットワークもスタミナもない」 視線の温度を低くすると、彼は今度こそ申し訳なさそうに太い眉を下げた。 「まあそう邪険にせずにさ。 小学校とか高校と比べたら少しは多いだろ?」 申し訳なさそうにするのが余計に憎らしいと思いながらも、真面目に取り合って少し考えてみる。  田舎で育った僕の小学校は1学年が60人程だったし、学校生活のほとんどはクラスや部活という小さな枠組みの中で進むため、友達100人はよっぽど社交性がないと無理な環境だったと思う。 僕自身は定期的に会話をする友人は両手で数えられるほどだった。 大学で知り合った人の中には離島出身で生徒が小学校全体で50人という人もおり、そういった人たちに関しては根本的にノルマ達成が不可能だ。 
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