春にありきたりで、ぴったりなこと

4/5

102人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
春だからだ。 正確に言うと、春の気配と共に入学してきたピカピカの大学1年生たちが大挙して押し寄せているからだ。 とはいっても、大学が始まって最初のまとまった休みであるゴールデンウィークを過ぎると一変、生徒の数が4分の1くらい減ってこの混沌とした状況も収まる。 なぜなら、初めの頃は純粋で、真面目に講義を受けよう、受けなければいけないとやる気と緊張感を抱えていた新入生も、講義をさぼっても大丈夫だということを”勉強"し、大学に来なくなるからだ。  「○○大学に受かる」というような差し迫った目標が一切ない大学において全ての大学生がとりあえず据え置く目標は「卒業する」というものであるわけだが、大学を卒業するのに必要な「単位」の合否は基本的に筆記試験やレポート試験で決まる。 逆に言えば試験で点数を取りさえすればいいので、講義に出なくてもいいわけだ。 このロジックを自分で見つけたり先輩から教わった新入生たちは、見事「サボり常習犯」へと堕落していく。  かようにして、大学のキャンパスでは毎年のように学生の「濾過」が行われている。 この現象は恐らく、大学に長いこと在籍している先生方にとっては春の風物詩とも言えるのだろう。 そして入学式が終わって間もない現在、食堂には将来講義に出続ける新入生と出なくなる新入生とが渾然一体となっている。  そこそこ強い卓球サークルで2番手の強者であると同時に法学部トップの成績を誇る七瀬公太郎は、濾過前の新入生のピカピカ具合を目にして先刻の質問をしたのだろう。  彼らがこれから作っていく「友達」は、小学生の頃に想い描いた理想のままなのか、否か。 良くも悪くも、ピカピカであろうとなかろうと、彼らの「友達」はあと1ヶ月もすれば固定化する。 そしてこの、いわば「友達づくりゲーム」のリザルトは、残酷にも新入生の大学生活の先行きをほとんど決めてしまう。  そういった意味で、僕たち上級生は今、新入生たちの大学生活を大きく左右してしまう立場にある。 そしてこの状況こそが、現在僕の最大の悩みの種になっている。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加