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トボトボと重い足を引きずって、オフィスへ戻る。
オフィスはがらんどう。坂本は部長と飲みに行った。他のみんなは……そうか、今日は八月の二十六日の金曜日。花火大会か……。どうりで、こんな日に残業なんかするやつなんていないよな。
ますます倉庫に隠れていた自分が虚しくて、バカバカしく思えてくる。
俺は鞄を肩に下げ、入口のポツンと点いていた照明を落とすとオフィスを出た。
駅の切符売り場に人が溜まってる。浴衣を着た人、スーツの人、子供、大人。 いつも見ない人たちで混み合う駅。そいつらを潜り抜け、改札を通った。階段でもたつく人の流れにイライラしながらなんとか電車に乗り込み、四つ目の駅で降りる。
俺と一緒にドッと人の波が流れ出た。横を歩く人間が強引に前へ出る。ドンと肩がぶつかり身体が弾かれた。
「さーせーん」
聞こえた声は気怠そうで、怠いと言わんばかりの悪態染みた謝罪。その声の主はピアスやらネックレスを付け、ちゃらちゃらした金髪野郎。
俺はそいつにムカッとした。腹の底から湧き上がる低い声が頭の中で響く。
なんでその甚平なんだよ。
甚平なんてどれも似たり寄ったりなんてのはわかっている。でも、わかる。その甚平は俺が昔、毎年着ていたやつと全く同じ柄だからだ。
遠い記憶が蘇る。
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