不器用な告白

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「そうだ、これ……」  大事な事を思い出し、夏奈にライブチケットを渡す。 「もし退院が間に合ったら武道館に来いよ。最高の席を用意したんだ」 「ありがとう! 和也の夢が叶ったんだもんね。絶対に行くよ……あれっ? これは……」  夏奈の受け取ったチケットの陰に、和也の名前が書かれたカードが隠れていた。 「俺のファンクラブなんてものが出来てさ……夏奈は会員ナンバー一番にしておいたぞ」  照れ臭くなり、視線を逸らしながら上擦った声を必死に出す。 「それで……その……武道館ライブが成功したら……結婚しよう」  ……  ……  たった数秒が何時間にも感じた。 「うっ……うっ……」  震える声が耳に届いて視線を戻す。  夏奈はファンクラブのカードを胸に当て、大粒の涙をボロボロと流していた。 「どうしたんだよ!?」 「わっ、わたしなんかで……いいの? もっと、かわっ、かわいくて……和也の事を……おもっ、想ってくれる人の方が……」 「田舎を出てから夏奈の事を忘れた日なんて一日も無いよ。いつかプロのアーティストになって夏奈を迎えに行く……それが俺の目標だった。三年くらい前に、俺のアパートに来てくれたろ? その……そっけない態度をとってごめんな。あの日、夏奈が来てくれたから頑張れた。ずっと応援してくれたから頑張れた。これからも、俺の心の支えになってくれ」  初めて見た夏奈の涙を指で拭い、優しく抱きしめて唇を重ねる。 「絶対に武道館へ行くからね」と何度も繰り返し言う夏奈の頭を撫で、俺は病院を後にした。
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