第一幕 星降る夜に

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第一幕 星降る夜に

 窓から見えるソメイヨシノが、ちらり、ちらり、と最後の名残を散らしている。  例年より肌寒い気候に、遅ればせながら咲いた桜もすっかり葉桜に変わる頃。  清(せい)涼(りょう)高校2年D組を担任する鈴(すず)宮(みや)一(かず)貴(き)は、放課後の開放感に浮ついた生徒達の合間を縫って職員室を目指していた。  前年度から少しずつ進められていた校内の改修工事が竣(しゅん)工(こう)を迎えたため、いくつかの教室はこの春から新しい配置となっている。  職員室と学年教室は、今までH型の校舎の渡り廊下を挟んで左右に分かれていたのだが、防犯上とか教育上とかの理由で同じ建物内に収まることになった。  しかしながら染み付いた習慣はなかなか抜けきらないもので、新学期も始まってしばらく経つというのに、うっかり渡り廊下を渡ってしまう教師は一人や二人ではなかった。 「あー……しまった」  例に漏れず一貴もその一人で、職員室に戻ってからの仕事の手順を考えているうちに、いつの間にか渡り廊下を半分ほど渡ってしまっていた。 「面倒だなあ、これ」  頭を掻いて方向転換をする。  頭を掻くのはバツが悪い時。戸惑い、気恥ずかしさをなだめる行為。  自分のしぐさが示す心理が頭をよぎって、一貴は思わず苦笑した。
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