第一幕 星降る夜に

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 数ヶ月前に関わったある事件をきっかけに、昔習得した心理学をまざまざと思い出したせいで、今でも時折こうしてデータとしての情報が記憶の底から蘇(よみがえ)る。そうかと思うと一番知りたい相手の心情はうまく推し量れないのだから、難儀なことだ。  やれやれと肩を竦(すく)めて渡り廊下を戻ると、突き当たりで何やら小さな悲鳴が上がった。 「うわ」  どか、と横腹に衝撃を受けて一瞬よろめく。何事かと視線を落とした先で見慣れた金髪が広がるのを見て、一貴はとっさにそれを抱き留めた。 「え、如月(きさらぎ)?」  片腕にすっかり収まる小柄な体躯に、生まれたてのヒヨコのような色の髪。制服を着崩し、指定されたものではない男物のタイを緩く締めたその女生徒は、件の事件で関わりを持つようになった、如月(きさらぎ)零(れい)であった。 「──」  ぶつかった衝撃に身を縮めていた零が、腕の中で何か言う。 「なに?」  聞き取れなくて覗き込むと、零が右腕で庇うように顔を隠した。次いで左腕をめいっぱい突っ張って、一貴の体を遠ざける。 「……さわ、んなっ!」  腕の下から覗く透明感のある白い肌がみるみる赤く染まっていく。  何にぶつかったのか、誰の腕に抱き留められたのか、理解しての反応らしい。
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