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がたたん、ごととん。
私は窓に映る自分を見た。はりのある肌には皺などなく、髪も黒々としている。
どうやら、妻に会っても自分だけが老人、という事はなさそうだ。
胸をなで下ろし、青年の隣に腰を下ろそうとした私を、彼は止めた。
「あとひとつ、寄るところが残っていますよ」
「え? どこだい?」
意外な言葉に目を瞬くと、初めて青年が笑みを浮かべた。
「百合の花が咲いている場所ですよ。必要でしょう?」
私は一瞬驚きーーそして破顔した。
そうだ。
それは重要な寄り道だ。
少し遅くなっても、きっと妻は許してくれる。
これからはずっと一緒なのだからーー。
がたん、ごとん。
電車はゆっくりと進んでいく。
優しい思い出とたくさんの百合の花を乗せながら・・・・・・。
私は暗闇の中、差し込む出口の光を眺め、そっと微笑んだのだった。
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