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もしかしたら私はこの言葉を待っていたのかもしれない。
それからは角田さんがプロジェクトを経て正式な専属スタイリストになって、ずっとそばで叱ってくれて。
避けていた人との関わり合いも、少しずつだが自分から動き出せるようになった。
角田さんには本当に感謝している。
でも、だからこそ悲しいこともあった。
「やっぱりダメなのね」
「……すみません、大丈夫だって頭ではわかってるつもりなんですけど」
二人で鏡ごしに向かい合う。
角田さんと仲良くなって半年。今なら大丈夫、そう思って髪を切ってもらえないかと頼んでみたのだ。結果は見事惨敗。髪に櫛を通したところまでは良かったのだが、わずかに首筋に触れた手に思わず立ち上がってしまった。
「せっかくお時間取っていただいたのに……」
「なに、いいのよ。なんて言ったって大事な香音ちゃんの頼みだもの。でもそうねぇ、いつまでも自分でってわけにもいかないしねぇ」
何よりおしゃれできないのが勿体無い。角田さんがそう言って少し悲しそうな表情を浮かべると、事務者にある小さな控え室に少しの間沈黙が流れた。
「そうだわ!」
それからは角田さんオススメの美容師さんがいるということで、トントン拍子で話が進んでいった。
角田さんでダメなのに他の人が大丈夫なわけがない。そう断ろうとしたが、角田さんのがっかりした顔をこれ以上見たくなくて気づけば曖昧に頷いていた。
紹介のメッセージを送っておくからいつ予約しても大丈夫。ゆっくりでいいよとどこまでも優しい角田さんの言葉に甘えてしまう。
こうして人生初の美容院へ行くことが決まったのだった。
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