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「満君はね、ありえないくらいのコミュニケーションおばけなのよ」
みちるって読むんだ。ずっとわからなかった漢字の読み方を知って少し嬉しくなる。
「だいたい六歳かしら、同じ学校に通う子たちとはそれくらい歳が離れていてね。私が夢見た頃とはだいぶ流行も違っていたし、最初の一年はとにかく授業についていくことに必死でろくに人と関わったりしなかったの。でも二年生になって、この業界で生きていくには話題の引き出しと巧みな話術が必要だってわかって急に焦り始めたわ。そんな時に出会ったのが満君よ」
「放課後の特別講座でしたっけ?」
「ええ。あの席に座ったから今の私がいるようなものよ。勉強ばかりでダメだと思っていたけど、それが役に立ったわ。私のアドバイスを目をキラキラさせて聞いてくれた。満君は私に世話になってばかりだって言うけど、本当は逆よ。私は満君の対人話術を存分に味わうことができたし、何より無邪気に私を慕ってくれる満君にすごく助けられた」
私がこんなグイグイした女に進化したのも満君のおかげ。そう言って笑う角田さんを見て、なんだか胸がチクリと痛くなる。
それに、田端さんが嬉しそうに角田さんとの学生時代を語る様子が重なって、胸の痛みはさらに増した。
「……羨ましいです。お二人とても仲が良さそうで」
私も、いつかこの二人のように真剣に向き合える人と出会えるだろうか。
否、できないだろう。なんて言ったって、自分から出会いを遠ざけているのだから。
「私は満君が今度はかおちゃんを助けてくれるんじゃないかって思うんだけどね……」
「何か言いましたか?」
「なんでもないわ。ただ自分にはどうにもできないことが悔しくてね」
グラスを煽る角田さんがなんと呟いたのかは、黒く濁る心のせいで私の耳には届かなかった。
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