第四歩 震える

5/5
前へ
/50ページ
次へ
「なんだか妬けちゃいますね」 「あら、それはこっちのセリフよ。最近満君とやり取りしてるんでしょう?紹介したのは私なのに、かおちゃん何も教えてくれないんだから」 「角田さんのお話することが多いから、言えなかったんですよ」  普段はあまり飲まないお酒を飲んだせいか、ずいぶん酔いが回ってきた。  クラクラする頭で話の内容を思い出して、ふふっと笑いがこぼれる。 「何、そんな笑うような話してるわけ?」  教えなさいよと笑いながら私の体を小突くふりをする角田さんに、ついある疑問が浮かぶ。 「……角田さんは、田端さんと……付き合ってるの?」  自分では心の中で聞いていたつもりでいたから、驚いた顔をする角田さんに逆に私が驚いた。  声に、出てた……?  しばらくすると、驚きから覚めた角田さんが今度は声を上げて笑った。 「あらやだ、仲良くなってから随分経つのにわからないの?」  焦りで鼓動が早まる私には、どうして角田さんが笑っているのかわからない。    そんな私に、内緒よと言って角田さんは耳元に顔を寄せた。 「私が好きなのは……社長よ」  語尾にハートマークでもつきそうな調子でそう囁かれる。  数秒動くことができなかった私は、お酒を煽って無理やり頭を働かせようとする。  そして一緒に挨拶回りをしていた頃の社長を思い出し……それから角田さんの方に向かい合う。  薄く頬を染めた角田さんを見て、なぜか少し力が抜けた。  瞬間脳裏に浮かんだ田端さんの顔に、胸が静かに震えるのを感じた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加