第五歩 煌めく

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 古民家を思わせるようなレトロな造りの店内に、思わず感嘆のため息が漏れる。  美容院といい今日来たカフェといい、最近はおしゃれな場所に縁があるようだ。 「すごくいい雰囲気ですよね。改装前も良かったんですけど、こっちの方が親しみやすい感じで俺は好きかな」  向かいに座る田端さんの言葉に頷く。  運ばれてきたコーヒーの入ったカップの装飾もそうだが、田端さんと同じく私もこのお店が早くも気に入っていた。 「私もすごく好きです。これから通っちゃいそう」  仕事が終わったら即帰宅、休日も外を出歩かない生活をしていたこともあり、いくら最寄りの駅とはいえこんな素敵なお店があったことすら知らなかった。 「じゃあこれからはここで偶然会うなんてことがありそうですね」  待ち合わせは私の最寄りの駅であり、田端さんの勤める美容院とは一駅離れていた。では、どうして田端さんが知っているんだろうと疑問に思っていたのだ。雑誌にも載っていたくらいだし、初めはそれほどに有名なカフェなのかと納得していたが、どうやら実際は違う理由だったらしい。  なんと、田端さんの最寄りも私と同じ駅、つまり家がとても近かったのだ。聞いた住所によると、大体徒歩で15分離れている程度だろうか。意外と世間は狭い。 「それで、先ほどの話なんですが……あぁ、そんなに怖い顔しないでください。俺、普通に今日楽しみにしてたので」 「そう、ですか」  無邪気に笑う田端さんに、そんなに変な顔をしていただろうかとハッとする。  言えない……私は楽しみどころか、何を言われるのか怖くて今日まであまり眠れていなかっただなんて。
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