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それからは、妙な雰囲気となってしまった二人きりの空間が辛かった。
もちろん実際には周りにも同じように客がいて、楽しそうに談笑をしている。ゆったりとしたBGMも、この店を包むのに相応しい暖かなメロディーを奏でてコーヒーの味を格段に美味くする。
満君には、そんな幸せな空間が広がっているのだろうか。
音も聞こえないほどに意識が満君に集中している私は、いまだに視線をそらすことができずに何か別の話題がないかと頭だけは懸命に働かせていた。
確かに望んだ。この時は。何かきっかけさえあればいい、と。
「あ、早川さ……」
響く椅子の音。
色をなくした満君の顔。
空を彷徨う伸ばされた指先。
「……っ、ごめ、ごめんなさい、私」
きっかけは最悪の形で作られてしまった。
優しい満君の笑顔を壊して。
私が、きっかけを作った。
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