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「すみません、俺つい髪を触ろうとしてしまって」
「どうして……どうして満君が謝るの!?」
川沿いの道を並んで歩く途中、そう謝罪した満君に足を止めて叫ぶ。
振り返った満君の顔は、逆光でよく見えなかった。
「満君は何も悪くない、悪いのは私でしょう?なのに、どうして満君が謝るのよ!」
そう、悪いのは全て私。
伸ばされた満君の手を反射的にとはいえ、大げさに避けた私が悪い。
甘かった。心の何処かで思っていたんだ。初めて髪を切ってもらうことに成功して、もしかしたら克服できたんじゃないかって。
それなのに、実際はそんなこと全然なくて、初めから私のことを理解して親しくなろうとしてくれた満君を拒否してしまった。
今だって、自分の不甲斐なさに満君に向かって怒鳴るように当たり散らして……こんなことやめたいのに、一度吐き出した想いは止まらない。
きっと、すごく傷つけた。
私のことなんかでそんなに思い詰めないで欲しいと思うが、心やさしい満君にそれはできないだろう。
現に、カフェを出てからここまで、必死になんとかしようと考えてくれていることが顔を見なくてもわかった。
「……ごめんなさい。またちゃんと謝るから、だから今日はもうごめんなさい」
情けない。せり上がってくるどす黒い感情を抑え込むのに必死で、熱い目頭を気遣う余裕がない。
もう、こんな醜態を満君に晒したくなかった。
これ以上嫌われたくない。
ただこの場を離れたい、その一心で俯いて謝りながら数歩後ずさった。
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