27人が本棚に入れています
本棚に追加
「待って!……待ってください」
後ずさる私に被せるように満君が一歩近づく。
「お願いです、まだ行かないでください」
あぁ、どうしてこのまま走り去ってしまわなかったんだろう。
顔を見なくてもわかる、悲痛な声。
まだ明るい空の下、そんな言葉を掛けられて走り出せるわけがなかった。
私の両方の目からは、すでに大量の涙が溢れている。
「大丈夫だなんて言いません。ただ、少しでも……僕のことを信じてもらえると嬉しいです」
また一歩、距離が縮まる。
逆光で見えなかった満君の顔が、よく見えるようになった。
信じる?満君を、信じる?
私は信じていた。信じて、信頼して満君を__
「……あ、れ?」
信じるって、なんだっけ。
信頼って、信じて、頼ること?頼れると思って、その人を信じること?
それなら私は……一方的に期待して、何も自分からは歩み寄ろうとしなかった。
「あ、あぁ……」
改めて気づかされた事実に、止まることのない涙とともに嗚咽が漏れる。
そんな私を見る満君は、困ったように眉を下げて、それでも必死に笑おうと口元を緩めていた。
最初のコメントを投稿しよう!