第六歩 蝕む

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 その日は、姉が午後から外出許可をもらって、久しぶりに家族揃って誕生日パーティーをする予定だった。  家でケーキを食べるだけのものだったが、私は朝からずっとそわそわして部屋の中を歩き回っていた。  12時になったらお姉ちゃんを迎えに行く。両親からそう聞いていた私は、久しぶりに家に帰る姉にいいところを見せたくて、せっせと掃除をしたりもした。 「もしもし……え?すぐに、すぐに向かいます!」  折り紙で作った飾りを家中に張り巡らせて、もうすぐ時計の針が11時をさそうとしていた頃、電話口で叫ぶ母の声を皮切りに両親が騒がしくなった。  どうしたのと聞いても大丈夫の一言だけを返されて、一人状況を理解できない私はポツンと部屋の隅に座っていた。  それから数分もしないうちに両親は、私を置いて病院へ向かった。  お留守番をしててねと言われると、一緒に行きたいと駄々をこねたが、予定より早く姉が帰ってくるのかもと思った私は大人しく部屋の装飾の続きをすることにした。 「……みんな、まだ帰ってこないの?」  気づくと、12時をとうにすぎていた。  今までは夢中で家中を駆け回っていて気づかなかったが、急に家に一人であることを理解すると、言いようのない不安がこみ上げてきた。  いてもたってもいられなくなった私が病院に駆けつけて最初に見たのは、両親に囲まれて静かにベットで眠る姉の姿だった。
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