第七歩 触れる

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 自分が優しくすれば、相手も優しくしてくれた。  そんな善意の送り合いは、当たり前のことだった。  向けられた好意を拒む者なんていない。  そうやって広げた交友関係は、いつの間にか自身で管理しきれないほどに膨れ上がっていった。  先輩——角田さんも、初めはその中の一人に過ぎなかった。  ただ、偶然隣にいたから話しかけた、それだけの人だった。  しかし、それまで周りと交流をしてこなかったという角田さんからは、今まで出会った人とは違う、ご機嫌取りだけでないとても貴重な話が聞けた。  それは技術に関することもそうだったし、生きてきた年数、環境が違うからこその真新しい話も。  だからこそ、そんな角田さんから紹介された初めて出会う”触れられない”人に興味を持った。  そう、満君は言った。 「俺は恵まれていたんです。周りにはいつも誰かがいて……だから、自分からもっと話したい、こっちを向いてほしいって思ったのは初めてだったんです」  満君がそう語る間、私はその瞳から目を離すことができなかった。  遠くに街灯が一つ灯るだけの暗いベンチ。しかしその表情だけははっきりと見ることができたのだ。 「今まで恋をしたことがなかったんです。恋がどんなものか知らなくて、だから焦ってしまった。早川さんのこと理解しようとしたのに、この気持ちの正体がわからなくて先走ってしまった」  私は今、一体どんな顔をしているのだろうか。
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