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自分が優しくすれば、相手も優しくしてくれた。
そんな善意の送り合いは、当たり前のことだった。
向けられた好意を拒む者なんていない。
そうやって広げた交友関係は、いつの間にか自身で管理しきれないほどに膨れ上がっていった。
先輩——角田さんも、初めはその中の一人に過ぎなかった。
ただ、偶然隣にいたから話しかけた、それだけの人だった。
しかし、それまで周りと交流をしてこなかったという角田さんからは、今まで出会った人とは違う、ご機嫌取りだけでないとても貴重な話が聞けた。
それは技術に関することもそうだったし、生きてきた年数、環境が違うからこその真新しい話も。
だからこそ、そんな角田さんから紹介された初めて出会う”触れられない”人に興味を持った。
そう、満君は言った。
「俺は恵まれていたんです。周りにはいつも誰かがいて……だから、自分からもっと話したい、こっちを向いてほしいって思ったのは初めてだったんです」
満君がそう語る間、私はその瞳から目を離すことができなかった。
遠くに街灯が一つ灯るだけの暗いベンチ。しかしその表情だけははっきりと見ることができたのだ。
「今まで恋をしたことがなかったんです。恋がどんなものか知らなくて、だから焦ってしまった。早川さんのこと理解しようとしたのに、この気持ちの正体がわからなくて先走ってしまった」
私は今、一体どんな顔をしているのだろうか。
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