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「いらっしゃいませ、こんにちは」
チリンという軽やかな鈴の音とともに私の視界に飛び込んできたのは、白とブルーを基調とした落ち着いた店内と、受付の方の爽やかな笑顔。
それから優しいとも甘いとも言えるほのかな香り。
初めて踏み入れるその空間に、扉を閉めることに戸惑ってしまうほどだった。
ここは本当に美容院なのか、カフェか何かの間違いではないのか。もう東京に出てきてだいぶ年月が経つというのに、まるで異空間に来てしまったかのようだった。
ぼぅっとしているうちに離れた手をすり抜けて、扉が再び鈴の音を鳴らす。
「本日ご予約はされていますか?」
無意識のうちに店内に吸い込まれていたのだろう、数瞬後には初めに感じた戸惑いなんかなかったかのように受付の前に立っていた。
来て、よかったかもしれない。
仲の良い角田さんでもダメなのだからと半ば投げやりな気持ちがあったが、もしかしたら、という希望を捨てないでよかった。
ひとまず、ぎこちなくだけれど笑顔を返せた自分に安心した。
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