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あぁ、きっとめんどくさい客が来たと思われているに違いない。
足元しか見えないが、先ほど見たいかにも女性受けが良さそうな優しげな顔が、私のせいで歪んでいるのだろうかと想像しただけでなんだか気分が悪くなって来た。
それもこれも、全部私が悪いのに……
やっぱり、私みたいな人間がこんなおしゃれな場所に来て、出しゃばるんじゃなかった。
ましてや他人を巻き込んで……
「すみません……やっぱり私……」
「早川様、どうぞお座りください。お荷物と上着は……そうですね、普通はお客様にこんなことさせないのですが、こちらのカゴにお入れいただいても?」
周りに漂う軽快な音楽とははっきりと区別のつく、少し前に聞いたばかりの声。
震える声で絞り出そうとしていた言葉を反射的に飲み込んで、ひゅっと小さく音がなる。
少し低めの耳に馴染むその声は先ほどと変わりなく、視界の端に見えたカゴを追ってあげた目線は、はにかんだ様に笑う田端さんの姿を捉えた。
「いつ来てくださるんだろうってずっと待っていたんですよ。早川様っておっしゃるんですね」
カゴを持ったまま、またサラサラの黒髪を揺らして田端さんが微笑んだ。
「先輩はいつも、かおちゃんって呼んでいたので」
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