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「……すぐに泣き止んだら付き合ってやる」
「え?」
一瞬で泣き止むたけし(仮称)。
友人も思わず「え?」と声を出してしまったが、その声はたけし(仮称)の声と居酒屋の喧騒に紛れて、隣には聞こえなかったようだ。
「付き合ってくれんの?」
「……でもセックスは無理」
「……ぇえ~?」
「キスくらいならさせてやるから」
「う……う~」
「なんだよ、いやならいいんだぞ別に」
「ううぅ、いや、付き合いたいです。お願いします!」
「……あたりまえだ。わかったか、セックスは無理だからな」
友人の我慢は限界に近づいていた。
女の子がここまでセックスセックス言うのは初めて聞いたのと、急な展開についていけなくなってきていたのだ。
それでも、我慢して焼酎を飲み、一生懸命聞き耳を立て、木の柵の隙間からたけし(仮称)の表情をうかがう。
しばらく何かを悩んでいた様子で下を向いていたたけし(仮称)が、何か意を決したように顔を上げるのがはっきりと見えた。
「……おっぱいは?」
「あ? ふざけんなお前! 見せないぞ!」
「じゃあ、服の上からちょっと触るだけでも――」
「触……ダメだダメ!」
「ぐぅ~……ふぐぅ~」
「泣くな!」
また俯いて泣き出すたけし(仮称)と、テーブルのがちゃん! と言う音。
友人はと言えば、「おっぱいは?」の一言で焼酎が気管に入り、盛大にむせていた。
1分以上続いた咳がやっと収まり、もう一度隣を覗くと、どういう経緯をたどったのか、たけし(仮称)は手を伸ばし、あゆみ(仮称)の胸元へとゆっくりと接近していた。
「手の甲で1秒だけだぞ」
囁き声で、でも鋭く、あゆみ(仮称)がたけし(仮称)を睨みつける。
友人は慌ててトイレに行くふりをして、その世紀の一瞬を木の柵の上からダイレクトに覗いた。
「バっカ! こら1秒って言ったろ!」
「はぁぁ……、すげぇ……、ぅぐぅ~……うう……やわらかい……」
「泣くなって……こっちが泣きたいよ……」
そんな会話を聞きつつトイレへ行くと、友人のツレは個室にこもったまま爆睡している。
半笑いのまま無理やり引きずって席へ戻ると、その頃には隣の席は空になっていた。
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