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ガタンゴトンと、車両は一定のリズムを刻む。
そのリズムと揺れとともに、私は夢の世界と現実世界とを行ったり来たりしている。
窓の外は暗闇、時折、ライトが駆け抜ける。
暗闇にじっと目を凝らすと、壁やケーブル、配管などが見える。
トンネルの中の列車は、スピードもいまいち分からず、あとどれ位で外に出るのかもわからない。
なんとなく、トンネルを出た先の駅に着く時刻がわかっていても、ぼんやりしていると今、どの辺なのか、全く分からないものだとわかった。
地中、ということもあって、いつなん時崩れてしまうのか、という恐怖感すら子供の頃は抱き、正直なところ私はあまり地下鉄に乗りたがらなかった。
今、夢と現実の行き来をしているのも、逃避に近いものがあると思う。
初めて、海底トンネルを通る列車に、乗っている。
海の底…今、私がいるのは、海底の更に下の地下。
どんなに考えても、どうしてそんなことができたのか、理解が追いつかない。
飛行機や船も、何であんな鉄の塊が宙や水に浮くのか不思議でならないのに、海の底更に下を列車が走るなんて。
文学やアニメでも、列車が宇宙や地下都市へ主人公を誘う、というものがあるが、そんなうきうきするような想像をしていないと押し潰されそうな緊張感があるような気すら私は感じてしまう。
喉がちりちりとする感じがし、ペットボトルから一口水を飲む。今、もし、トンネルが塞がったら、この水やバックの中の飴が役に立つのだろうか、などと不必要であろう心配をしている。
今の私には、そのくらい、余裕がない。
飛行機や船が無理そうならと、地下鉄に乗ってはいるけれど…
昔から私は周囲にしっかりしてる、と言われてきた。
父はぽやんとして、それをそのまま受け取り、
「しっかり者で真面目なんですよ。」
と、またニコニコしながら私のことを話していた。
母は、実は小心者で、万全に準備をして物事に当たらなければならないから、しっかりしているように見える私のことを理解してくれているように見えた。
父はいつもニコニコし、ほんとにただ、微笑んでいるような人だった。母は、笑顔でも目の奥が笑っていない、何か心配な表情を私には向けていた。
ぼーっと暗闇の映る窓を眺めながら、窓に映る自分の表情を見ると、その母の表情になんとも似ていると感じ、少しイライラして目を閉じた。
私は母のことが嫌いだった。
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