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その時だった。圧迫感のある影を感じて振り返ると、そこには大きな黒い傘からはみ出るほどの体を左右に揺らしながら、こちらに向かって歩いてくる人影が見えた。街灯に照らされた顔も大きくて、膨らんだ頬の肉に、押し付けられるようにして細い縁のメガネが張り付いている。メガネの中の目は細く吊り上がっていて、使い古して透かせるほど薄くなった白いタオルで時折顔を拭いながらゆっくりとこちら近づいてくる。彼女の言っていた『巨漢の星』とはこいつのことじゃないか。どこをどうすれば俺みたいな細い男と間違えたりするんだ。
『……会ったこと、ないんじゃないのか』
そう思った途端『神待ち』と言う言葉がふっと浮かんできた。行く当てのない家出少女が泊めてくれる人間を待つ、あれだ。ネットで募集をして、釣れたのがこの巨漢?性欲を満たそうと夜中にギラついているこの男だってことか?本当に良いのか?……って俺には関係ないけど。俺のパーカーは小雨に負けて、もうすでに湿り始めている。
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