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教室の見回りを終えて、犬走りになっている渡り廊下で足を止めた。
春霞を染める夕焼け。
みのりはやわらかな風を吸い込み、夕日が遠い山の稜線に消えていくのを見守った。
桜も散り尽きて青々とした若葉が茂るころ、みんなほっと一息をつく。
新しい同僚に新しい生徒。始まったばかりの生活に少し慣れて、張りつめていた気持ちも少し和んでくる。新しい出会いに心も弾み、受験シーズンのような切迫感もない。
みのりは一年の中で今の季節が一番好きだった。
渡り廊下からは学校のグラウンドが一望できる。左手では野球部が、快音を響かせている。右手ではサッカー部が紅白戦の真っ最中。県大会の予選の目前で、どの部も練習に熱が入っている。
生徒たちの授業中とは違う真剣な表情を見ていると、とてもいとおしく思えてくる。
ふと黄昏の中を、暖かい風に乗ってひとひらの桜の花びらが舞い落ちてきた。人々が眺めなくなって若葉の陰でひっそりと、そんな咲き遅れた花も、盛りのころの花と同じように美しい。
みのりは自分の方に飛んできたその花びらを、そっと手のひらで受け止めた。そして、いとおしむように両手で包み込む。
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