1 : きっかけ

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「…かん……勘、違い…?」 予想もしていなかった少年の解答に、 男は口をぽかんと開け、マヌケな顔で聞き返す。 「はい。 昨今の日本人の、"触らぬ神に祟りなし精神"をご存知ですか?」 「んぇ?あ、あぁ、事なかれ主義、というやつであろうか…」 未だ混乱する頭を現実へ引き戻しながら、記憶を探る男。 「えぇ、よくご存知のようで。 つまりは、そういう事でしょう。」 「…? つまりは…どういう事なのだ?」 「…"アナタの事が見えていない"のではなく、"見て見ぬフリをされている"のでは?と。」 「見て見ぬフリ…? …何故!?」 全く理解が出来ない、といった様子である。 「…先程も言ったように、『事なかれ主義』ですから。 誰だって、本人が自覚してしまう程の変人に絡んでまで、面倒事に巻き込まれようだなんて…少なくとも日本人の9割はそんな考えを持たないでしょう。」 「だ、が…しかし…、」 納得のいかない男。 しかし少年は、 「要するに、そういう事なんです。 アナタは『ヒトには見えない特別な人』ではなく、 道往く人々の脳内から自動的に削除される『他人には見えない可哀想な人』だったんですよ。」 冷徹に、告げた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加