1.プロローグ

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1.プロローグ

空は今にも泣き出しそうな曇天だった。 プシューという無機質な音をたてて電車のドアが背中の後ろで閉まった時、俺は初めてその駅が無人なことに気がついた。 どの位の間、電車に揺られていたのだろう・・・・ 別に何か目的があったわけではなかった。 ただ、昨日の単なる続きでしかない今日・・・毎日、同じように繰り返される今日から抜け出してみたかっただけだ。 昨日のお酒が少し、まだ頭の隅に残っているようだった。 「少し飲みすぎたな」 誰もいないベンチに座り独りごちた。 「おめでとう」「すごいな」という同僚達の賛美の声が、今も耳から離れなかった。 「すげーよな!高井、今度課長だってよ。同期最速!さすが高井!将来は、社長か?」 「高井!婚約おめでとう。百合菜姫のハートをゲットできるなんて、やっぱイケメン、高学歴はちげぇよな」 「おいおい・・・結婚式二次会には呼べよ・・・」 みんなが笑顔の高井をこづきながら、笑顔で何回も何回も乾杯!と言いながらグラスを重ねた。 「私、乾杯は、二人でするのが好きよ。グラスとグラスを少しだけ・・そうKISSをするように優しく・・・周りに聴こえないくらい少しだけの音をたてて」 駅舎にかけられているレトロな時計が、ふっと霞んで見えた。 「俺・・・泣いているんだ」 握りこぶしに落ちた一滴の水滴を見て、俺は、久しぶりにその両目から涙があふれていることに気がついた。 **2.「新入社員研修」へつづく**
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