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授業中、隣の席の人がパタパタと扇ぐ下敷きの微風に、私の切り揃えた前髪がさわさわ動いてむず痒い。
窓から入ってきてしまったのか、すぐ隣の廊下から蝉の鳴き声がする。
「起立――礼」
「ありがとうございました」
校舎に響き渡る昼休みのチャイム。
廊下に溢れた人の間を縫って階段を1段1段下りていけば、不特定多数の人の声が遠くなっていく。
1階、階段近くの角を曲がってすぐにあるのは、保健室。
今日も私はその真っ白な戸の前に立って、引手に指を掛ける。
――ガラ
私がこの学校にやってきて、保健室に通うようになって此の方、ここは、他の生徒がほぼ寄り付かない安息の場所だ。
「……」
なのに最近どうしたわけか、私が保健室に来ると必ず先客がいる。
壁際にある机の前に、丸椅子が3つ。
1つは、保健室の先生・花保ちゃんのもの。
そして1つは空席、あとの1つには――
茶髪にピアス、着崩された制服と、人目を引く風貌の男子生徒が座ってる。
まさに今、口をあんぐり開けてあんパンにかじり付こうとしていた彼は、戸を開けて現れた私を暫く凝視した後、
「おかえり」
そう言ってパンをかじりながら、空いている丸椅子を叩く。
私を迎えるこの人は、この学校にやって来たもう1人の転校生。
内宮 晴香。
「……ただいま」
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