07.

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ズブズブと沈みそうになる気持ちを持ち直そうと、顔を上げた時。 ――あれ? 廊下に溢れた人の声がガチャガチャ混ざってうるさかったのに、それが急に止んだ。 見ると、先輩の腕が私の顔の横に伸びていて、正面にある先輩の胸がさっきより近くにある。 先輩の両手が、私の両耳を塞いでる。 そのことに気付くと、沈みそうだった気持ちが一気に浮上する気がした。 ――トク、トク 触れられて、体の真ん中で速くなる音が聞こえてきそう。 「先輩……近い」 「うそ」 耳を塞がれているから、目の前にいる先輩の声も聞こえない。 「聞かなくていいものは、聞かなくていいんだよ」 先輩の口は動いてるのに、声が聞こえない。 先輩の声は、聞きたいのに。 そっと手が離れて、周りの雑音が聞こえるようになる。 「先輩?」 腕を引かれて、教室の前から離れた。 周りにいる何人かの人が、私達を目で追ってくる。 「先輩」 腕を掴んだまま階段を降りる先輩に声を掛ける。 「なんだい?」 返ってきた言葉に、誰の真似?と、軽い息をこぼして聞く。 「さっき、なんて言ってたんですか?」 「あ、そっか。聞こえなかった?」 「先輩が耳を塞いでたんじゃない」 なんて言ったの?って聞くと、また今度って返事が返ってくる。 そんなやり取りに、私は先輩の後ろで口の端を広げて笑う。 先輩、知らないでしょ。 先輩とのひとつひとつの会話に私は救われて、小さな幸せを感じてること。
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