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「私、転勤族の家の娘(コ)だったんだ」
真っ直ぐ空を見つめて静かに話せば、少し間が空いて、先輩から『知ってる』と返事が返ってくる。
「先生に聞いた」
うん、知ってる。
花保ちゃんはきっと、私のことを先輩に話してるんだろうなって気付いてて、それでも私は、自分の口で話したかった。
「中学の頃からみんな、離れたところから私を見るようになった。
私も、どうせすぐに遠くへ行くんだからって、声を掛けようとしなくなったの。
それが……いけなかったんだろうね」
もうずっと思い出すことがなかった記憶を引っ張り出して、オレンジに染まりかけた空に浮かべる。
「うち、両親がいないの」
「……それも知ってる。先生から聞いた」
「交通事故でね。最近、1年前にね。だからもう、転校はしなくていいんだって」
苦しい、体が震える、苦しい。
でも、話したい。
「うん……知ってる」
たまに呼吸を整えると、私が話すペースはゆっくりゆっくりになった。
先輩はずっと聞いてくれて、たまに“知ってる”と落ち着いた声で応えてくれた。
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