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「でも、頑張ったんだっけ……。出来てたことが出来なくなったって、さっき話してくれたよな」
なんで?
なんで急に、先輩――。
「もう、うるさいって先輩」
「お前、泣いてる? 泣くことってある?」
泣くこと?
「ないよ……」
「親が死んだ時は?」
「泣いてないよ。なんでか、泣けなかったんだもん」
口調が強くなってしまう。
「だったら何? 泣いたってどうにもならないし」
それで2人が“ただいま”って帰ってくるの?
家のインターホンが鳴って、私が扉を開けて2人が立ってたら。
たくさんの買い物袋を提げた2人が立っていたら、そしたら、靴を履くのも忘れて飛びついて泣くよ。
「泣いたりなんかしたら、それこそヒソヒソ何か言われちゃうでしょう……?」
先輩にイライラしている自分に腹が立つ。
私が声を振り絞るように言えば、間仕切りの向こうでポツリポツリ、落ち着いた声で話す先輩。
「人間って……不思議な。辛い時は涙が出るようになってんのに、その機能使わないで我慢するなんて。親が死ぬのって、辛いことなんじゃないの?」
「知らない。思い出したくない」
「思い出せって」
先輩は知らないから言えるんだ。
思い出せなんて、そんな言葉。
「も、いい……先輩、出てってよ」
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