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「先輩に、出てけって言っちゃった」
助手席に乗って呟くと、シートベルトを引く手を止める花保ちゃん。
「あら、それはそれは。だからかぁ、内宮くんが貴方を置いて帰っちゃうなんて珍しいと思った。喧嘩でもしたの?」
車内にカチ、とシートベルトの閉まる音が響くと、花保ちゃんが運転する車は私のアパートへと向かう。
「嫌な自分……見せちゃった」
「ほう」
「だって先輩、急に、めんどくさい生き方してるねって言ってくるんだもん」
「内宮くんが?」
先輩が、と運転席を見ると、フロントガラスの向こうを見つめる花保ちゃんは、口角を緩く上げて優しい顔をしている。
「そう。貴方にそう言ったの、内宮くんが」
「先輩が分からない……」
「もしかすると、過去の自分を思い出したのかもしれないね。今日の貴方を見て」
「……過去?」
横顔に聞き返すと、花保ちゃんはハンドルを握ったまま肩を竦めてへらっと笑う。
「どうしよっかなー。お喋りって怒られちゃうかもしれないから、私の独り言だと思って聞いて?」
お願いよ、と一瞬目を合わせる花保ちゃんは、交差点でみぎひだりを確認しながら話し始めた。
先輩のことを何1つ知らない私は、これから先輩の過去を知る。
それは、花保ちゃんが前に言い掛けて教えてくなれかった、転校して来た先輩が倒れた私のところに来てくれた――理由。
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