最終章

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  冬になった。 この学校で過ごす2度目の冬。 1年目は冷たい雪が降る空を見上げながら、泣くことも出来ずにお母さんとお父さんのことを考えていた。 でも、今年の冬は違う。 ふと2人を思い出して、私は温かい涙をこぼす。  静かに泣いていると隣から手が差し出されて、その手を握れば、自分のポケットに入れて暖めてくれる人がいる。 先輩と、暖房器具なんてない空き教室の床に足を伸ばして並んで座って、室内にいるのにマフラーを巻いて話をした。 寒いねって言うと、寒いねって返ってくる。 「先輩の手、冷たい」 「早くあっためてよ」 繋いでいる手をぎゅぅうっと握ると、『頑張れー』とやる気のない声援が聞こえる。 仕方なく空いている手で制服のポケットからホッカイロを取り出すと、先輩の頬にピタ、と押し付けてあげる。 「こーらー、最初から出しなさいよ」 ジト目を向けてくる先輩。 私はそんな先輩を見て、肩を竦めて笑う。 「先輩、髪切った?」 「ん。もうすぐ面接あっから」 少しだけ短くなった襟足にそっと手を伸ばすと、指先で毛先に触れる。 「黒くしたんだね」 静かにそう言えば、さっきと同じ返事が返ってくる。 茶色かった先輩の髪は、今は、墨を頭からかぶったみたいに真っ黒になっていた。
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