最終章

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私は、先輩には内緒でマフラーを編んでいた。 そんなことするのは初めてで出来上がりも完璧とは言えなかったけれど、先輩に渡したら『あったかい』と喜んで、会う度に首に巻いてくれていた。 大晦日も初詣も一緒に過ごして、冬休みが終わると、3年生は自由登校期間に入った。 先輩は就職が決まって、学校に来る用事はないのにたまに顔を出した。 本人は何も言わないけれど、私のためなんじゃないかと思った。 保健室、空き教室、学校の帰り道。 そこに先輩がいなくても、私達の笑い声が今にも聞こえてきそう。 先輩の卒業式まで――あと少し。 「ありがとうございました」 最近先輩は、学校に来ない。 花保ちゃんは、『内宮さんのためだよ』って言う。 私のために来てないっていうなら、自由登校が始まった時からそうしてくれればよかったのに。 残り僅かで会えなくなるのは、結構辛い……。 午前の授業が終わって机の上の教科書を片付けていると、教室のあちこちで机を引きずる音が響く。 仲良い同士、各自机を合わせて昼食の準備を始める中、席から立たずに机の上に小さな弁当箱を出す女子が1人。 最近、“えり”が私の視界によく入る。 文化祭の翌日、教室の後ろに集まって話をしているところを見たきり、いつも一緒に行動していた女子と“えり”が一緒にいるところを見ない。
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