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彼女の背中に視線を置いたまま、ゆっくりと教室の戸に手を添える。
廊下に出て戸を閉める音が耳に届くと、臆病な自分にため息がこぼれた。
みんな食事をしているから、人気のない廊下。
中から笑い声が聞こえる教室の壁にもたれて、明日……明日は……、と思っていると。
――ガラ
教室の戸が開いて、私は壁から背中を離す。
女子が出てきた。向こうも私に気付いて視線が交差する。
困ったように笑う“えり”の手には、箸箱が握られている。
「あ――」
歩き出そうとした彼女を見て、咄嗟に声が出た。
彼女が振り向くけれど、私は喉に蓋をされたみたいに声が出ない。
ひんやりした風が通って肩を縮める。
あぁ、やっぱり駄目だった。そう思った。
「あの……」
弱々しい声が聞こえて、私は徐々に落としていた視線を上げる。
「ぶ、文化祭の時は、ごめんなさい。……ずっと謝れなくて、ごめんなさい」
ごめんなさいと同時に下げられる頭。
「え……あれは、私が……。こっちこそ、あの時ちゃんと謝れなくて……ごめんなさい」
まだ頭を下げている彼女に、私も腰を曲げて謝る。
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