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「角川さん。何してるの?」
下を向いて言葉を落とすと、眉を垂らして笑う角川さん。
「“角川さん”に戻ってるよ」
「あ……」
あれから話すことが増えた私達は、お互いに下の名前で呼ぶようになった。
「なんでそんなとこにいるの?」
返事を返そうとしたら、誰?と横から先輩の声がする。
頭を引っ込めて『えりちゃん』と紹介すれば、
「お前、友達出来たの?」
眉を上げる先輩は、彼女のことを“友達”と呼ぶ。
私は、出来たの?と自分に問い掛けながら彼女を見下ろした。
「先輩といるんだ」
「わーっ、私、邪魔しちゃったねぇ。でも、そこにいたら怒られちゃうよ」
「そうだね」
少し声を張って話をしていると、隣にいる先輩も『そうだよ』と彼女の言葉に賛同する。
「怖い先生に見つかっぞー」
目を細めて口を三日月にする私は、脅してくる先輩と目を合わせて微笑む。
「いいの。今日で最後だから」
夢が覚めたような表情できょとんとする先輩は、お前……、と小さく口を開ける。
「変わったな」
窓からまだ少し冷たい風が入ってくると、私は髪を耳に掛けながら首を横に振る。
「これからだよ」
これから、これから先輩のいない学校生活が始まる。
先輩がいなかった頃に戻るんじゃなくて――はじまり。
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