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声に出さずにじっと見つめると、俺の気も知らないで風花は首を傾げる。
自分の姿が俺の目にどう映ってんのか考えもしないで、そうしてるんだろうな。
「可愛いから許す……」
「え、今怒ってるの私じゃなっかったっけ」
「先輩と一緒にゲームして下さい」
「フフ、ゲーム? その前に、お腹空いたよ」
ご飯食べて、ゲームして。
俺が風呂から出たら、ベッドの足元で山になっていた洗濯物を畳んでくれている人がいる。
布団に横になって、どっちが電気を消すかで言い合いになって。
足を絡めて話をして。
風花といると、どの瞬間も楽しくて幸せだと思える。
それが逆に、怖いと思うこともあった。
もしも終わりがきたらどうしよう。
こんなに好きなのに、大事なのに、自分が傷付けるようなことがあったらどうしよう――。
風花と付き合い始めて、悪魔みたいな顔した奴が夢に出てくる数は減った。
“何のために生まれたんだ”
子供の頃、おはよう、おやすみを言うみたいに、朝から晩まで父親から言われ続けた言葉。
「おい坊主、お前、何のために生まれたんだ」
低いひしゃげたような声でボソボソと“なんで生まれたんだ”って言われる度に、俺は母親に“じゃあなんで生んだんだ”って思ってた。
父親が吐く言葉は酷いもんだったけど……。
それは母親にも聞こえている筈なのに、止めてもくれないでこっちを見ようともしないその姿が一番堪(コタ)えた。
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