やさしいヒト

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「怖い」 表情はなかった。 ただ真っ直ぐ先輩を見つめて、ポンと、そこに置くように口から出た気持ち。 正直で臆病な、私の気持ち。 「なんで?」 久しぶりに聞くように感じる先輩の声は、思っていたよりも穏やかで、少し細めた目で見つめられる。 どうしようもなく好きすぎて、怖いの。 「先輩の傍にいたい……」 自分の耳にも届かないような声で、ぽつりと呟く。 「……いるよ?」 その返事に、うん……そうだね、と私は眉を下げて微笑んだ。 「――風花の誕生日って、いつ? もしかして、もう過ぎてたりすんの?」 どうして突然そんなことを言い出したんだろうと思うけれど、何も聞かずに答えると、 「ありゃ、やっぱし過ぎてたか」 「うん。でも、気にしな――」 「なんか欲しいもんないの?」 ――え? 「欲しいもの……」 先輩の言葉を繰り返しながら、頭を巡らせる。 新しい服とか、アクセサリーとか、そんなのは全然浮かんでこなくて。 パッと、頭の中に浮かぶのは―― あなたの顔。
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