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金属がこすれ合う甲高い音がホームに響き渡る。しかし、電車の緊急ブレーキは間に合わない。電車は、女が落ちた場所から少し先で止まった。
野次馬が集まり始め、俺たちもその中に身を隠す。駅員たちが走ってきて、電車に近寄らないようにと大きな声で叫んだ。
駅員たちに電車から遠ざけられながら、俺は見た。信じられないような光景を見たんだ。
女を轢いたであろう電車の車輪部分で、何かが蠢いていた。いくつもの黒い物体が、血のついた車輪の辺りで蠢いていたんだ。それは人間に似た形をしていたが、人間ではなかった。
俺はアキラに何も訊けなかった。怖かったんだ。これ以上知ることが、怖くてしょうがなかった。
アキラは通路を歩きながら、俺のそんな気持ちを見透かしたようにきいてきた。
「おまえは、誰にされたんだ?」
「された?」
「吸血鬼にさ」
俺は答えられなかった。答えたくても、俺を吸血鬼にしたあの女のことを何ひとつ知らない。
「その女のことを、おまえは愛してたのか?」
アキラは立ち止まった。そして俺の目を覗き込んだ。俺は情けない顔で笑って、首を横に振った。それから吸血鬼になったいきさつを彼に話した。
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