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「オレも似たようなもんさ。酔って街で声をかけた女が、吸血鬼だった。だけど、オレにはそのとき愛している女がいた」
アキラは、悲しい顔をしていた。もう思い出したくないとでもいうように、頭を振った。
「吸血鬼になったオレは、愛する女が待つ家に帰った。だが女と会った瞬間に、激しい衝動に駆られたんだ……、さっきのおまえみたいにな」
恐ろしいことだった。幸い、俺にはそんな女はいないけれど、アキラの気持ちは痛いほどわかった。あの衝動は、悪魔の囁きだ。
「結局、オレは我慢できなかった。愛する女の血を吸って、この上ない快楽に溺れてしまった。そしてその女も、吸血鬼にしてしまったんだ」
「その人は、今どこに?」
「吸血鬼は、吸血鬼の血を吸うことはできない。オレは見知らぬ人間の男を捕まえては、女のところへ運んだ。こいつの血を吸え、と。だけど、あいつは吸わなかった。そんなことはできないと言って」
アキラはため息をついた。そのあと俺を見たアキラの目は、うっすらと潤んでいた。
「さっき見ただろう、車輪についた血を舐めるやつらを。オレたちは人間の血を吸い続けることで、この人間の容姿を保っているんだ。血を吸うことをやめれば、本来の姿に変わってしまうのさ……、やつらのように。やつらは、自分では血を吸えない連中だ」
「まさか……」
「オレの愛した女は、あの中にいるよ」
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