巣くうものたち

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 驚いて振り向くと、見知らぬ男が隣に立っていた。山男のようにひげを蓄えた男が、正面を見据えたまま俺の腕を強い力で握っていた。 「やめておけ、ここは目立ちすぎる」  男は低い声で言った。その声は、俺の衝動を少しずつ収めていった。  俺の身体から力が抜けたのを察して、男は腕から手を離した。そしてポケットから取り出したスマートフォンで、何かのメッセージを打ち始めた。  そのとき、ホームに電車の到着を告げるアナウンスが流れた。俺の前に立っている女は、背後で起こっていたことなど少しも気づいている様子はない。  電車がホームに入ってきて、風が大きく吹きつけてくる。乗車しようとする人間たちが、それぞれのドアの前に列を作る。  この男、誰なんだ?  そう思った瞬間、どこからともなく別の男たちが集まってきた。まだ十代らしき男の子やライダースジャケットを着たガラの悪そうな中年男、スーツ姿の年配のサラリーマンまで様々な年齢の七、八人の男たちが、ひげの男を囲むようにして立っている。
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