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混みあった車内で、男たちは的確に自分の位置を陣取っていた。皆、目線すら合わさずに他人のふりをしているが、同じ目的のために素早く動いていた。
さっきホームで俺の前に立っていた女は、入口と反対側のドアにもたれて相変わらずスマートフォンを触っている。女の前に俺とひげの男が立ち、その三人を囲むようにして仲間の男たちが立っていた。
知らない人間から見れば、それは何の変哲もない混雑した車内の光景だ。それが計算された「布陣」だなんて、誰一人思わないだろう。
ホームに発車のベルが響いて、ドアが閉まる。地下鉄が動き出したその瞬間、ひげの男がスマートフォンを触っている女をドアに押し付けて、右手でその口を塞いだ。女は目を見開いて、驚きと恐怖の色を浮かべた。
俺も女と同じだった。誰かに見られたら……、そう思って周りを見回すと、俺たちの周りには完全な「壁」が出来あがっていたんだ。表情のない顔のまま、誰からも見えないように仲間が俺たちを囲んでいた。
ひげの男が、小声で言った。
「お前は新入りだから、今日だけは特別だ。ほら、好きなだけ飲めよ」
俺は反射的に、押さえつけられている女を見た。口を塞がれたままの女は、目を見開いて小さく震えている。
その姿を見た俺は、ふたたび強い衝動に駆られたんだ。
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