巣くうものたち

9/14

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 もう、自分を抑えることはできなかった。女の白い首筋以外、目には入ってこなかった。周りにいる仲間たちが見守る前で、俺はその女の首筋に噛みついたんだ。  声にならない女の悲鳴が、震えとなって俺の唇に伝わってくる。  柔らかな肌に、ゆっくりと牙を差し込んだ。その瞬間、どろりと液体が口の中に流れ込んで、血の香りが鼻をついた。  ああ……、なんて美味いんだ。  女の血を喉に流し込みながら、俺は初めて味わう快感に酔いしれていた。周りの男たちがどんな目で見ていようと、そんなことはもうどうでもよかった。  次の駅が近づいて電車がスピードを緩めると、ひげの男は俺の身体を女から引き離した。牙が女の首筋から抜けて、血が滴る。男は素早くハンカチで俺の口と女の首筋の血を拭った。  そして、電車が駅に止まってドアが開いた瞬間に女を解放し、俺たちは速足で車内を後にしたんだ。  女の首筋に噛みついた快楽と喉を潤した満足感で頭がぼうっとして、俺は歩くのがやっとだった。横目で車内を見やると、さっきの女の身体が膝から崩れ落ちて誰かが悲鳴を上げた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加