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「へへぇー…バレちった」
悪びれもせずに、ガキみたいに笑う渋谷。
「でも、まあ…最初、支えたくれたのはサンキュー!」
渋谷が支えてくれなかったら、確実に倒れてた。
そこだけは、感謝する。
「その位は当たり前!蒼ちゃんが俺にしてくれた事のが、断然多いから。蒼ちゃん、俺…やっぱり自分の気持ちに素直でいる方が、幸せだって思う。だから、蒼ちゃんも……」
「…うん…そうだな」
それから、誉が俺の荷物を持って来るまでの間、俺と渋谷は何も話さなかった。
居心地悪さは感じなくて、今度は渋谷が俺の気持ちに寄り添ってくれていた。
誉と渋谷に見送られ、学校を後にした俺。
流風さんの家の方向ではなく、目的の場所を目指して、駅に向かう。
最寄り駅から、半年間慣れ親しんだ街並みを、ひとり歩く。
こうやって、ひとりでこの道を歩いたのは、数える程度。
いつも俺の隣には、大和が居たから。
目的地に着き、脚を止める。
大和に、返しそびれた鍵を玄関の鍵穴に差し込もうとしたところで、
「…蒼様?」
今朝も聴いた穏やかな声が、俺の名前を呼んだ。
俺のことを、大和と変わらずに『様』付けで呼ぶのは、ひとりしかいない。
その声の主に振り返る。
「…大川さん…」
「こちらに、お戻りになられたのですか?」
そう言って、優しげな頬笑みを浮かべ、俺を見る大川さんに、慌てて右手を左右に振る。
「ち、違うんですっ!戻って来た…訳じゃなくて……その……確かめに……」
「…大和様が、不在かどうかを…ですか?」
大川さんの問いに、首を縦に振る。
「はい……俺…何も知らなくて。大和の自主退学のこと、今日担任から知らされて…」
「…私は今…空港から戻って来た所です。大和様を、お送りさせて頂きました」
空…港……
大和を、送って来たと言う大川さん。
家の中に入らずとも、大和の不在を、大川さんが証明してくれた。
「…大和はっ、どこに行ったんですかっ!?」
国内なのか、それとも外国なのか……
知ったところで、俺に大和を追い掛ける手段はない。
それでも…どこに行ったのか…知りたい。
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