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自分が宿す色は蒼と茜だと聞いている。
聞いている、という他人事のような表現になってしまうのは、未だどちらも発動したことがないからだ。
発動できる頃になると適合する「仕事」を承って下界に降りることになる。
ただし下界のような具体的な「年齢」が存在しないこの世界では、上の長老たちが勝手に決めた「個人による頃合い」によってその頃には差があった。
男は、自分と出逢った頃には既に「仕事」をしていた。
話しぶりからしてずいぶん長く生きているらしいことは理解しているが、それ以上の事は何も知らない。特に知る必要があるとも思わない。
自分も含め、色を持つ者たちは結局のところ共同体なのだ。どう足掻こうと、それは変わらないだろう。
宿る瞳の色により「仕事」は決まっており、選択の余地はない。
拒否する権利も当然ない。
色を宿して生をうけた瞬間から、自分たちの宿命は決まっているのだ。
そうする他、生きている理由はないのだろう。
冷たく鋭い蒼であろうと、血のような茜であろうと、……たとえどんなに美しい浅葱色であろうと、辿る道は同じだ。
「そんなに見つめてくれるなよ」
はっと我に返ると、男と目が合っていた。随分長い間見つめ合っていたらしい。真正面から笑われさすがに気恥ずかしさを覚えて顔を逸らす。
うっかりじっと見てしまった。誰かと瞳を合わせるたびに怖れられるか気味悪がられるのが常だったせいで、相手の目をみることはやめていたのに。
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