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「素敵な顔になっているよ。おまえさんとの付き合いは短くないが……初めて見たなあ、そんな表情は。感情が通っている者であってくれて安心したよ」
心底愉快そうに笑い声をあげる男を前に、頬を少し膨らませる。
「なんだい、そういう顔も出来るんじゃないか。何時(いつ)もそうしていたらいいのに。とても可愛らしいよ」
言いながら頬をつう、と指先で撫でられ全身の毛が逆立った。
「気味の悪い事を言うな触れるな」
「おや。河をおまえ、と呼びかけている事を黙っていてあげるという親切な仲間を相手に、随分な物言いじゃあないか」
にやりと唇の端をあげて笑う男を前に、固まる。やはり聞かれていたのか。
「あんな風に慈しみを込めて呼ばれてみたいものだよ? 俺も」
「……気色悪い事を言うな」
「ふうん?」
「………他の連中には」
「勿論言うわけがないじゃないか。こんな素敵な事をすぐに広めては意味がないだろう? せっかく掴んだ、おまえさんの弱みだというのに」
「……性格が悪い」
「素直と言ってほしいねえ。……ああそうだ、仕事へと向かう前に言わなくてはならないことがあったんだった。今日はそれを伝えるために来たんだった」
「それならそれを早く言え」
「せっかちは嫌われるよ?」
「貴様に好かれようなどと思わん」
「はいはい、わかりましたよ」
男はゆらりと立ち上がり、乱れた着物の合わせを気持ちばかり整える。
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